「SEに向いてないかもしれない」と思いながら、転職先を検索している人に書いている。
先に言っておくと、俺は職種を変えていない。SEのまま転職した。
だから「向いてないならこの職種へ」という一覧を出すことはできない。代わりに書けるのは、向いてないと思いながら4年やって、最後に何を基準に転職先を決めたかだ。
結論から書く。転職先を「職種」で探すのは、順番が違う。
「向いてない」と思ったときに変えられるものは、3つある。
- 職種を変える(SEをやめる)
- 業界を変える(ITをやめる)
- 立ち位置を変える(同じ職種・同じ業界のまま、商流の中で立つ場所を変える)
俺が変えたのは3つ目だけだ。SEのまま、IT業界のまま、SES(客先常駐)からITコンサルへ移った。
多くの人は1つ目から考える。でも1つ目は、積み上げた経歴を捨てて未経験からやり直すことになる。いちばん代償が大きい手を、いちばん最初に検討している。
「向いてない」と思ったのは、コードが書けないからじゃなかった
文系で未経験のままIT業界に入った。周りは理系出身で、学生時代から4年プログラミングに触れてきた人ばかりだった。
エラーメッセージを、自分で消せない
いちばん分かりやすく差が出たのはここだ。エラーが出る。文面を読む。それでも自分では解消できない。
結局、誰かに聞いて解決するしかなかった。聞けば直る。でも次に同じことが起きても、やっぱり自分では直せない。
自分の中に何も残らない感じがした。手順は 増えていくのに、原因にたどり着く力は増えていかない。
周りは、エラー文を読んで当たりをつけて、自分で潰していく。同じ画面を見ているのに、見えているものが違うんだと思った。
同期は、プログラミングができた
同期に、プログラマー出身で情報学部を出た人がいた。年齢は俺より2つ下だ。
普通に優秀だと思った。妬みとかではなく、単純に「そういう人がいるんだな」という感じだった。
決定的だったのは、興味が湧かなかったこと
ただ、いま振り返って一番「向いてないな」と思った理由はこれだ。
同期は、システムがどんな仕組みで動いているのかを理解しようとしていた。
俺には、そこへの興味が湧かなかった。
「そういうもんなんだ」としか思えない。動くならそれでいい、で終わってしまう。
できないことより、知りたいと思えないことの方がきつかった。努力でどうにかする以前の話に見えたからだ。
コードが書けないこと自体をどう扱っていたかは、プログラミングができないSEは辞めるべきかに別で書いた。あれは「できない」話で、こっちは「興味が湧かない」話になる。
でも、無関心だったわけじゃなかった
ここに気づくまで時間がかかった。
俺は自分の仕事が楽になるためにどうすればいいかを考えるのは、好きだった。
物流にいた頃、残業ありきの業務が当たり前になっているのが嫌で、Excelの関数とVBAを独学した。手作業でやっていたところを自動化して、1日30分削った。
あの過程は普通に楽しかった。というより、IT業界に興味を持ったきっかけがそれだった。
つまり関心が無いんじゃない。関心の向く先が違った。
同期は仕組みに向いていて、俺は「目の前の仕事をどう軽くするか」に向いていた。それを長いこと、能力の差だと読み違えていた。
この読み違えは、たぶん珍しくない。「向いてない」と言うとき、能力の話をしているつもりで、実は興味の方向の話をしていることがある。
「向いてない」を、2つに分けてみる
ここが一番、他の人にも使えるところだと思うので書いておく。
「向いてない」とひとことで言うが、中身は2つに割れる。
①「できない」なら、まだ手はある
技能の問題は、人に聞けば進む。場数を踏めば減る。もっと言えば、それを要求されない場所へ移るという手もある。
実際、俺は業務でコードを書かないまま4年やった。書けないこと自体で困った場面は一度も無かった。職場の選び方でどうにかなってしまったからだ。
②「興味が湧かない」は、時間で解決しない
厄介なのはこっちだ。
興味が湧かないと、努力する前の段階が続かない。調べようという気持ちがそもそも起きない。だから勉強量を増やしても解決しない。増やす動機がないからだ。
俺は完全に後者だった。参考書は買っていた。ただしそれは、いま担当している工程を回すための本で、システムの仕組みを知るための本じゃなかった。
この2つを分けずに「向いてない」とまとめてしまうと、打つ手を間違える。①なのに転職を考えたり、②なのに勉強時間を増やしたりする。
それでも、職種も業界も変えなかった
転職活動をするとき、SE以外の職種はほとんど見ていない。
唯一、別の選択肢として見たのが社内SEだった。業界は問わずに探した。
理由は単純で、そのときの俺は「今より給与が良くて、楽そうな会社」を探していたからだ。楽そう、が先に来ていた。
ただ、面接を受けていくうちに違和感が出てきた。社内SEの面接で会った人たちが、あまり楽しそうに見えなかった。一緒に働きたいと思えるかで言うと、思えなかった。
逆に、開発側やマネジメント側の会社で会った人たちは、はっきり楽しそうだった。この差は求人票を何回読んでも出てこない情報で、会って初めて分かった。
このとき何を得たのかは客先常駐SEは底辺なのかにまとめてある。ここでは「楽そうを基準にすると外す」とだけ書いておく。
職種まで変えてしまうと、また未経験からやり直しになる。テストから要件定義まで4年かけて積み上げたものが、その瞬間に効かなくなる。それは避けたかった。
物流からITへ移ったとき、これは一度やっている。年収は87万円下がった。未経験で入り直すというのはそういうことだ。
1回目は、それでも移る価値があった。でも2回目に同じことをするなら、理由がよほど強くないと割に合わない。「向いてない気がする」だけでは弱い。
4年で何を積み上げたのかは客先常駐SEは底辺なのかに書いた。ここでは「積み上げたものを捨てない」という判断だけ持っていってほしい。
じゃあ何を変えたのか。商流の立ち位置だ
移った先はITコンサルだ。ただし上流だけをやる会社ではない。
要件定義から設計・開発、リリース、その後の運用保守まで一貫して持つ。コンサルという名前から想像するより、ずっと泥臭い範囲まで抱える。
職種はSEのまま。業界もITのまま。変わったのは、商流のどこに立つかだけだ。
客先常駐でいたときは、どれだけそのシステムに詳しくなっても、仕様を決めるのは客先だった。俺はあくまで相談役で、決める側には一度も立てなかった。
この「決められない側にいる」という感覚を、長いこと自分が向いてないせいだと思っていた。でも違った。立っている場所がそうだっただけだ。
だから同じ職種のまま、決める側に近い場所へ動いた。要件定義とPM補佐でやってきたことを、そのまま持ち込める場所を選んだ。
客先常駐でいた頃は、工程の一部だけを任されていた。テストならテスト、要件定義なら要件定義。作ったものがその後どうなるかは、自分の手を離れていた。
いまいる場所は、そこが繋がっている。同じ案件を上流から最後まで持つ。だから「決めた人が最後まで面倒を見る」という当たり前が成立する。
「職種を変える」の意味を、はっきりさせておく
ここは自分でも一度こんがらがったので、基準を書いておく。
肩書きで言えば、俺はSEからコンサルになった。字面だけ見れば職種が変わっている。でも実際に起きたことは違う。
職種を変えるというのは、それまでの経歴が実績としてカウントされなくなることだ。
1回目の物流からITは、まさにこれだった。配車を3年やった実務は、ほとんど材料にならなかった。持って行けたのはExcelとVBAで業務を改善した話と、勉強しているという姿勢だけだ。だから年収が87万円下がった。
2回目は逆だった。評価されたのは、SEとしてやった要件定義とPM補佐そのものだ。テストから始めて工程を1つずつ上げてきた、その積み上げごと値段がついた。
肩書きは変わったが、中身は地続きだった。だからこれは職種変更じゃなく、立ち位置の変更だと思っている。
この区別は大事だ。「向いてないから職種を変えなきゃ」と思っているとき、本当に必要なのは経歴を捨てることではなく、経歴が効く場所へ動くことだったりする。
物流の社内SEで「500万」と言ったら、こう返ってきた
業界を問わずに社内SEを見ていたので、物流業界の社内SEの求人も受けた。前職の業界だ。
面接で希望年収を聞かれたので、正直に答えた。
「500万円です」
返ってきたのはこれだ。
「そんなに偉くなりたいの?」
偉くなりたいと言った覚えはない。金額を言っただけだ。
でもこの一言で、はっきり分かったことがある。この業界では、500万が「高望み」として扱われる。俺の実力を評価した結果ではなく、業界の相場がそこにある、というだけの話だ。
同じ数字を出しても、業界によって返ってくる反応が違う。IT側では、500万は普通に土俵に乗る金額だった。
このとき「転職して本当に良かった」と思った。年収が下がった時期も含めて、業界を移ったこと自体は間違っていなかったと確信した瞬間だった。
年収を上げたいなら、キャリアチェンジは効率が悪い
ここは誤解されたくないので、順番に書く。
俺自身は物流からITへキャリアチェンジしている。しかもそのとき年収は87万円下がった。だからキャリアチェンジを否定する気はまったくない。
ただし、あのとき俺が求めていたのは年収じゃなかった。
- リモートワークができること。物流では絶対に叶わない
- この先、年収が上がっていく見込みがあること。物流にいる限り天井が見えていた
この2つのために、一度下がることを受け入れた。目的が「働き方」と「将来の伸びしろ」だったから、下げてでも移る価値があった。
逆に言うと、いますぐ年収を上げたいという目的なら、キャリアチェンジは選ぶべき手段じゃない。未経験で入り直す以上、短期的にはほぼ必ず下がるからだ。
だから「向いてないから職種を変えよう」と考えている人には、先に一度立ち止まってほしい。それは何を解決するための転職なのか。
順番は、立ち位置 → 業界 → 職種
じゃあ何を基準に動けばいいのか。俺の答えは、代償の小さい順に試すことだ。
①まず立ち位置を疑う。同じ職種・同じ業界でも、商流のどこに立つかで裁量も年収も変わる。俺はここだけ変えて足りた。
②次に業界を疑う。ここで見るのは求人1件の金額じゃない。その業界の年収レンジが、どこからどこまでなのかだ。
③職種を変えるのは最後。いちばん代償が大きい。経歴がリセットされる。
同じ職種でも、業界が変われば同じ働きで返ってくる額が変わる。「そんなに偉くなりたいの?」と言われる業界と、同じ数字が前提として扱われる業界がある。
そして見るのは今年の年収じゃない。生涯年収で見たときにどうかだ。10年後に自分がどのあたりにいるのかは、個人の頑張りより先に、業界のレンジでだいたい決まってしまう。
実際、転職活動で製薬業界の求人も紹介された。年収が高い業界として名前が挙がるところだ。ただ俺の場合は「年収は下がる」と言われた。笑ってしまったが、これも同じ話で、レンジが高い業界でも入り方によっては下がる。
だから調べるべきなのは求人票の1件の金額じゃなく、その業界にいる人がどのくらいのレンジで動いているか、になる。
やり方は難しくない。俺がやったのはこのくらいだ。
- 年齢別の平均年収を調べて、自分がどこにいるか見る。俺はこれで下だと知って動き出した
- 同じ職種の求人を、業界だけ変えて並べる。提示レンジの差がそのまま業界差になる
- 面接で希望額を言ってみて、反応を見る。数字より反応の方が正直だった
3つ目は乱暴に見えるかもしれないが、実際いちばん効いた。「そんなに偉くなりたいの?」は求人票のどこにも書いていない情報だった。
逆に、辞めない方がいい人もいる
ここまで書いておいてなんだが、俺がいた会社は4年間で辞めた人が1人もいなかった。
居心地は本当に良かった。
- 定時は9:00〜17:15。朝礼もない
- 週2でリモートが使える
- 成果物が期限に間に合っていれば、時間の使い方をとやかく言われない
- 休みやすい。家庭の事情も聞いてもらえる
この条件で不満が無いなら、無理に動く理由はない。「向いてない気がする」だけで辞めるには惜しい環境だと思う。
じゃあ何が分かれ目だったのか。仕事の中身ではなかった。生活コストだ。
会社の年収レンジは300〜400万くらい。実家から通っていて家賃がかからないなら、この額でも十分やっていけると思う。実際、満足している人はいた。
でも俺は家賃を自分で払っていた。貯金はほとんど増えなかった。同じ職場が、生活コスト次第で天国にも行き止まりにもなる。
「やめたい」と思ってから実際に動くまでの順番は、客先常駐をやめたい人へに書いた。焦って辞める必要はない、という話をしている。
向いてないと思ったら、今日やること
正直に書くと、「SEに向いてないと思ったらどこがいいか」への俺の答えは「それはわからない」だ。
職種を変えていない人間が、変えた先を勧めるのは無責任になる。だから代わりに、順番だけ渡しておく。
- 「向いてない」の中身を分ける。できないのか、興味が湧かないのか。この2つは対処が違う
- 職種を変える前に、業界を疑う。同じ仕事でもレンジが違う
- いまの自分の相場を数字で見る。下げる転職なのか上げる転職なのかが、ここで初めて判定できる
- 目的をはっきりさせる。年収なのか、働き方なのか。両方は同時に取りにくい
業界ごとの転職先の並べ方については、物流の側から書いた物流からの転職先おすすめ7職種が参考になる。職種で選ぶときの見方をまとめてある。
どのエージェントを使ったか、使わなかったかは物流からの転職でエージェントはどれを使うかに全部書いた。
1年目の自分に言うなら
「向いてないかも」と思い始めたのは、たぶん入って半年くらいの頃だった。
あのとき何を言ってやれるかというと、たぶんこれだ。
その感覚は正しい。ただし辞める理由にはならない。
仕組みに興味が湧かないのは事実だった。4年経っても湧かなかった。でもその4年で、テストから要件定義、その先まで担当が変わっていった。興味が湧かない部分を持ったまま、仕事の方は進んでいった。
向いてない部分があることと、そこで働けないことは別だ。俺の場合、向いていない場所を避けながら、向いている方向に寄せていったら、たまたま4年経っていた。
まとめ
「SEに向いてない」と思ったのは、コードが書けないからじゃなかった。同期が仕組みを知ろうとしているのに、自分にはその興味が湧かなかったからだ。
ただ、無関心だったわけじゃない。自分の仕事を楽にする方には、ちゃんと関心があった。関心が無いのではなく、向いている先が違っただけだった。
そして俺は、職種も業界も変えていない。SEのまま、IT業界のままだ。
変えたのは商流の立ち位置だけ。SES(客先常駐)からITコンサルへ移った。それだけで、決められない側から抜けられた。
業界を変えるとどうなるかは、1回目に経験している。物流からITへ移ったとき、年収は87万円下がった。だから2回目は、いちばん軽い手から試した。
物流の社内SEで「500万」と言ったら「そんなに偉くなりたいの?」と返ってきた。戻らなくてよかったと思っている。同じ数字の重さが、業界によって違う。
肩書きはSEからコンサルに変わった。でも評価されたのは、SEとしてやった要件定義とPM補佐だ。職種が変わったように見えて、中身は地続きだった。
向いてないと思ったとき、最初に職種を変えようとしなくていい。
先に、いま自分がどこに立っているかを見る。それだけで景色が変わることがある。