「冷凍倉庫はやめとけ」
そう調べているということは、冷凍倉庫の求人を見ているか、配属が決まったか、いま実際にそこで働いているかのどれかだと思う。
たぶん、頭にあるのは寒さだ。
俺は物流会社の営業所にいて、1年目の11月から辞めるまで、2年以上、冷凍倉庫のある拠点で働いた。
先に、この記事でいちばん大事な数字を1つ出しておく。
5分。
作業着のまま冷凍庫に入って、俺が耐えられた時間だ。
庫内は−30℃。毎日入っていた。荷物を探したり、数を数えたり、乗務員の荷下ろしを手伝ったりするためだ。
ここまでは、検索している人の想像どおりだと思う。
でも、ここから先が違う。
その5分が、一日でいちばん楽な時間だった。
俺が冷凍倉庫できつかったのは、寒さじゃなかった。
順番に書く。
先に言っておく。きつかったのは寒さじゃなかった
結論から書く。
冷凍倉庫で働いていた2年以上のあいだ、俺がしんどかったのは庫内を出たあとの時間だった。
鳴り続ける電話。「溶けてた」というクレーム。そのたびに作る温度の記録。
寒いのは、正直そんなに嫌じゃなかった。
というより、寒い方へ逃げていたという感覚の方が近い。
もちろんこれは俺の立ち位置だからそう見えた、という話でもある。そこを先にはっきりさせておく。
まず立場を書いておく。俺は庫内作業員じゃない
ここを曖昧にしたまま読ませたくないので、先に出す。
- 物流会社の営業所にいた
- 職種は配車(運行管理)。倉庫作業がメインの人間ではない
- その営業所に冷凍倉庫があった
- 1年目の11月から辞めるまで、2年以上そこにいた
- 庫内には毎日入っていた。ただし1回5分
つまり俺は、冷凍庫の中で毎日8時間働き続けた側の人間ではない。
だからこの記事では、中で毎日働く人の代弁はしない。
書くのは2つだけだ。毎日5分だけ入っていた俺の身体に何が起きたかと、中で長いこと働く人たちを2年以上、いちばん近くで見て何が見えたか。
ちなみに、冷凍倉庫に来る前は一般倉庫で現場作業をしていた。そっちの話は物流倉庫がきつい5つの理由に書いた。
この記事は、その続きにあたる。
なぜ冷凍倉庫に来たのか
先に書いておくと、押し付けられて来たわけじゃない。
一般倉庫の方で配車をやっていたら、冷凍側の配車担当が辞めることになって、俺に声がかかった。
受けた理由は2つある。
- 一般倉庫の乗務員の人柄が、正直あまり合わなかった
- 冷凍側は海外の拠点もあって、経験を積めば海外で働ける可能性があると思った
つまり自分で手を挙げて来た。
そして、ここが我ながら間抜けなところなんだが、寒いかどうかは、選ぶときにまったく気にしていなかった。
いま「冷凍倉庫 やめとけ」で調べている人が、いちばん気にしているであろうところを、当時の俺は検討材料にすらしていない。
2年以上いて、その判断は間違っていなかったと思っている。理由はこの記事の後半に書く。
冷凍倉庫の中は、こうなっている
求人票で「冷凍倉庫」と書かれていると、ずっと−30℃の中にいるような絵が浮かぶと思う。
少なくとも俺のいた倉庫は、そうじゃなかった。
冷凍エリアは、冷蔵エリアの奥にある。
手前にあるのが事務所で、ここは空調が効いている。普通の会社の部屋と同じだ。その先に冷蔵エリアがあって、ここが1〜3℃。冷凍エリアはさらにその奥にある。
だから移動するときは、空調の効いた部屋 → 1〜3℃ → −30℃ と段階を踏むことになる。
この真ん中の冷蔵エリアが、思っているほどきつくない。
冷蔵エリアは、何時間いても平気だった。
1〜3℃と書くと寒そうだが、上着さえあれば普通に作業できる温度だ。
つまり「冷蔵倉庫」と「冷凍倉庫」を同じものとして心配しているなら、そこは分けて考えていい。
問題はその奥だ。
俺が毎日、そこに入っていた用事
配車なのになぜ毎日庫内に入るのか、と思うかもしれない。用事はいくらでもあった。
- 荷物を探す(どこに置いたか分からなくなる)
- 数を数える
- 乗務員の荷下ろしを手伝う
- 普通に問い合わせの確認をしに行く
荷主から電話がかかってきて「その荷物、いま何ケースある?」と聞かれれば、数えに行くしかない。
机の上だけで完結する仕事じゃなかった、ということだ。
作業着で入ると、5分で身体に何が起きるか
先に言っておくと、俺は防寒着を持っていなかった。
正確に言うと、庫内作業用の装備を支給される立場じゃなかった。持っていたのは普通のダウンくらいだ。
だから毎日、作業着のまま入っていた。
「対応する服装を持っているわけじゃないので」、5分が限界だった。
この5分というのは、根性で我慢した時間じゃない。それ以上いると用事の方が手につかなくなる、という意味の5分だ。
数を数えている途中で、指がうまく動かなくなる。
中にいるあいだに起きることを、順番に書くとこうなる。
- まつ毛が凍る
- 耳が痛くなる
- 手がかじかんで、指が動かなくなる
まつ毛が凍るというのを、俺はここで初めて経験した。その話は物流倉庫がきつい5つの理由にも書いた。
地獄なのは、荷物が見つからないとき
ここまで「5分」と書いてきたが、5分で必ず終わるとは限らない。
荷物を探しに入って、すぐ見つかればいい。
見つからないときが一番きつい。
探しているあいだも時間は進むし、身体は勝手に限界に近づいていく。それでも見つけないと外に出られない。
「なかなか見つからない時は、死ぬかと思ったよ」
これは大げさに言っているわけじゃなくて、当時そのままの感想だ。
だから正確に書き直すと、こうなる。
楽なのは「5分で出られると分かっている5分」の方だ。
終わりが決まっている用事なら、あそこは静かでいい場所だった。終わりが決まらなくなった瞬間に、同じ場所が地獄になる。
出た瞬間に起きること
中にいる5分より、出た瞬間の方が分かりやすい。
- メガネが、出た瞬間にすぐ曇る(何も見えない)
- 手がかじかむ
- 顔が真っ赤になる
メガネをかけていた時期は、庫内から出るたびにこれをやっていた。曇りが取れるまで少し待つ。
で、そのとき何を思っていたかというと、これだ。
「さみぃ〜。でも気持ちいい」
我慢して耐えた、みたいな話に書きたくなるところだが、正直そうじゃなかった。
むしろドアを開ける前は、こう思っていた。
「用事があって入る時には、すごく気持ちは楽だった」
この感覚が何なのかは、あとで書く。
中で毎日働いていた人たちの話
俺が5分で出てくる同じ場所に、長いこと入っている人たちがいた。フォークリフトに乗る人たちだ。
正直に書くと、一度入ったら何時間で出てくるのか、俺は把握していない。
自分の用事で入って、自分の用事で出ていたからだ。ただ長いこと入っているのは分かった。
どんな人たちだったか
- 年齢は40代から60代
- 全員が男だった
- 防寒着は会社支給のロングコート
- その中に着るものは、夏でもフリースなどを自分で用意していた
支給されるのは外側のコートまでで、その下は自前だった、ということだ。
夏にフリースを買っている人を見て、この仕事は季節が関係ないんだなと思った。
身体のこと(ここは正直に書く)
腰はしょっちゅう痛めていた。これは事実だ。
ただ、それを寒さのせいにして書くのは違うと思っている。
腰に関しては、冷蔵も冷凍も関係ないと思う。
荷物を持ってフォークに乗って、というのは常温の倉庫でも同じだからだ。俺が一般倉庫にいたときも、腰の話は普通に出ていた。
あと、これも意外に思われるかもしれないが、床は凍っていなかった。
フォークリフトが滑って事故になった、みたいな話も無かった。
「冷凍倉庫 フォークリフト」で調べている人がいるとしたら、少なくとも俺のいた現場では、寒さがそのまま危険につながる感じではなかった。
人は減ることはあっても、増えなかった
2年以上いて、庫内の人が増えたところを見たことがない。
求人は出ていた。募集はしていた。それでも増えなかった。
ただ、ここで話をきれいに「人手不足で現場が崩壊していた」に寄せると嘘になる。
俺が3年その会社にいて、庫内で辞めた人は1人だけだ。
その1人の分は補充されず、残った人で割り振った。それでも平常時は余裕で回っていた。
きつそうに見えたのは繁忙期だ。そのときは俺も手伝いに入った。ラップを巻いたり、数を数えたり、検品したり。
つまり人が定着していない職場ではなかった。増えないだけだった。
そして、その人たちを見ながら俺が思っていたのは、同情ではなかった。
「灼熱の外よりいいよな」
これは後半でもう一度出す。
冷凍手当は、誰にも付いていなかった
求人票を見ている人が気にするところだと思うので、先に書いておく。
俺のいた会社に、冷凍手当のようなものは無かった。
- 配車の俺には無い
- 庫内で働く人にも、付いているという話は聞いたことがない
- 冷凍の荷物を運ぶ乗務員にも無い
−30℃の中に長いこといる仕事なのに、それに対して何かが上乗せされる仕組みが無かった、ということだ。
ただ、ここで俺が「ふざけるな」と怒っていた、という話にはならない。
当時の俺は、正直こうだった。
「考えたこともなかった」
手当が付くべきかどうか以前に、そういう発想が頭に無かった。
新卒で入って、そこが最初の職場だ。「この環境なら普通は何か付くのでは」と比べる相手がいない。
いま思えば、そこは聞いてよかった。
というより、これから入る人は先に聞いた方がいい。
求人票に「冷凍倉庫」と書いてあっても、手当が付くのか、防寒着は支給なのか、中に何時間いるのかは書かれていない。
俺がこの記事で書いている「−30℃」も「5分」も、求人票からは絶対に読み取れない情報だ。
俺が実際に転職活動で使ったサービスの比較は物流からの転職でおすすめのエージェントにまとめてある。
しんどかったのは、庫内を出たあとだった
ここが、この記事でいちばん書きたいところだ。
冷凍倉庫の配車の仕事は、常温の事務所にいる時間の方が圧倒的に長い。
そして、しんどさは全部そっちにあった。
「溶けてた」の電話
冷凍・冷蔵の荷物は、温度管理が厳しい。
普通の荷物なら「傷がついた」「数が合わない」で済むところが、こっちは温度で来る。
納品先から荷主に「溶けてた」と言われる。荷主から俺に電話が来る。
そのとき頭に浮かんでいたのは、これだ。
「またかあ。だるいなあ」
怒りでも焦りでもない。だるいだった。
なぜだるいかというと、そのあとにやることが決まっているからだ。
謝るのは俺。でも「俺らじゃない」
クレームを受けるのは俺で、謝るのも俺だ。
ただ、こっちにも言い分はある。積むときから溶けていた可能性だってある。
だから謝りながら、内心は「でも俺らじゃない」というスタンスだった。
それを証明するために、配送車両の庫内温度の履歴を表にして、荷主に出す。
積んでから降ろすまで、車の中が何℃だったかを並べる。それを見せて「うちの区間では溶けていません」と言う。
ここが、いま振り返るといちばん嫌なところだ。
その記録は、正確とは言えなかった。
抜けているところもあれば、辻褄が合わないところもある。
その曖昧なところを埋める作業まで含めて、俺の仕事だった。
−30℃の中で5分震えているより、この作業の方がずっとしんどかった。
だから、寒い方へ逃げていた
ここまで書くと、最初に出した言葉の意味が通じると思う。
「正直、電話に出たり事務作業をする方がしんどかった」
「用事があって入る時には、すごく気持ちは楽だった」
庫内に入っている5分は、電話が鳴らない。
荷主も来ない。上司にも呼ばれない。やることは目の前の荷物を数えることだけで、しかも5分で必ず終わる。
一日の中で、終わりがはっきり決まっている仕事がそこしかなかった。
寒さは、そのための入場料みたいなものだった。
夏になると、順番がひっくり返る
もうひとつ、検索している人の想像とたぶん逆のことを書く。
夏は涼しかった。
これは冷凍エリアの話だけじゃない。手前の冷蔵エリアが1〜3℃なので、建物に入った時点で涼しい。
俺は冷凍倉庫の前に、一般倉庫で現場作業をしていた。
そこにはクーラーが無かった。
倉庫にクーラーが無いのは、別に珍しいことじゃない。荷物のために温度を管理する必要が無ければ、人のためだけに空調は入らない。
つまりこういうことになる。
- 冷凍倉庫:荷物のために温度を管理する → 結果として夏は人も涼しい
- 一般倉庫:荷物に温度管理が要らない → 夏は外と同じ暑さがそのまま入る
だから俺は、ロングコートを着て庫内に入っていく人たちを見ながら、こう思っていた。
「灼熱の外よりいいよな」
同情ではない。どちらかというと、うらやましさの方が近い。
聞かれたら答えは決まっている。
一般倉庫と冷凍倉庫なら、俺は一般倉庫の方がきつかった。
ただし、ここは一般化しない。
倉庫の大きさによっては、空調が整っているところもあると思う。
俺が言えるのは、俺が働いた一般倉庫にはクーラーが無かったという1つの現場の話だけだ。その5ヶ月のことは物流倉庫がきつい5つの理由に書いた。
じゃあ「冷凍倉庫はやめとけ」なのか
ここまで読むと「冷凍倉庫、意外といいのでは」と思うかもしれない。
そう書きたいわけじゃない。言えることと言えないことを、分けて書く。
俺に言えないこと
庫内で長時間働き続ける側のしんどさは、俺には分からない。
5分で出てくる人間が、8時間の想像をつけるのは無理だ。
そのうえで正直に書くと、こう思っている。
冷凍庫の中の作業そのものは、しんどいと思う。長時間ならやめとけと思う。
ただ、その理由をうまく説明できない。
腰は寒さと関係ないと思っているし、床も滑らなかったし、人もほとんど辞めていない。
数えられる根拠を挙げようとすると、実は何も残らない。
それでも5分で限界だった人間の実感として、あそこに一日いるのはしんどいだろうと思う。それ以上のことは書けない。
俺に言えること
言えるのは、心配している場所が違うかもしれないということだ。
「冷凍倉庫 やめとけ」と調べる人は、たぶん寒さを心配して調べている。
でも俺が2年以上いて、しんどさが集まっていたのは常温の側だった。
だから、応募する前に見るところはここだと思う。
- 庫内にいる時間はどれくらいか(ずっと中なのか、出入りするのか)
- 防寒着はどこまで支給か(外側だけか、中に着るものも出るのか)
- 手当が付くのか(求人票にはまず書かれていない)
- 庫内以外に何をやらされるか(俺の場合はここが本体だった)
この4つは、求人票を眺めているだけでは出てこない。俺が転職のときに間に入ってもらったのはリクルートエージェントで、活動を一度止めたあとも同じ担当者に連絡するだけで再開できた。人と話す時間が取れない時期はリクナビNEXTで求人を眺めるだけにしていた。
とくに最後の1つだ。
寒さは慣れるか、逃げれば終わる。でも電話とクレームは、職場を変えないと変わらない。
俺が辞めた理由も、寒さじゃなかった
最後に、この記事の答え合わせをしておく。
俺は結局、この会社を3年で辞めた。
でも辞めた理由は、−30℃でも、腰でも、手当でもない。
直接のきっかけは上司の働き方を見たことで、その話は配車・運行管理から転職した話に書いた。
もうひとつ、冷凍倉庫に移った月から毎週土曜に出社する生活が始まっている。そっちは週6勤務はきつい?にまとめた。
並べてみると、俺が辞めた理由は全部庫内の外側にある。
冷凍倉庫という職場を思い出すとき、いちばん最初に浮かぶのは寒さじゃない。
鳴っている電話と、温度の表だ。
いま同じ場所に立っている人へ
もし求人票を見て、寒さだけが不安で止まっているなら、そこは調べる価値がある。
−30℃は、想像するほど中心の問題じゃないかもしれない。
もしいま実際に中で働いていて、それでもしんどいなら、何がしんどいのかを一度分けてみるといい。
寒さなのか、身体なのか、それとも庫内を出たあとの時間なのか。
俺は2年以上かけて、それが3つ目だと分かった。
物流という業界そのものをどう思っているかは物流業界はやめとけ?「負け組」なのかに、配車という職種の中身は運行管理の仕事がきつい5つの理由に書いてある。